急性疾患について

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比較的急につらい症状がでて、経過がまだ短い病気が急性疾患です。感冒やインフルエンザ、COVID-19 などの感染症急性胃腸炎、夏場の熱中症などが多くみられる病気ですが、急性心筋梗塞脳卒中など重症の病気も含まれます。当院は予約制ですが、重症の急性疾患が疑われる患者様は順番を早めて診察し、救急搬送も含め適切に対応いたします。これらの患者様の対応に時間がかかると予約時間通りに診察できないことがございますのでご了承ください。
急性疾患の診断は実はとっても難しく、白血病や感染性心内膜炎などの命にかかわるような病気が最初は風邪と区別がつかないことはよくあります。最初の治療でよくならない場合は必ず再度受診してください。この際紹介状無しで別の医療機関に受診すると診断に時間がかかる場合がありますのでまずは最初に受診した医療機関に相談することをお勧めします。

急性胃腸炎

急性胃腸炎は胃腸に炎症が起こり、腹痛や嘔吐、下痢などの症状がでる急性の疾患です。腹痛には波があることが多いです。細菌やウイルスなどの感染や、食べ過ぎ・飲みすぎ、ストレス、薬剤などが原因となります。感染による胃腸炎のうち、食中毒として多く届け出られたのはノロウイルス、カンピロバクター、ウェルシュ菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、病原性大腸菌などです(厚生労働省のHPから各年の食中毒発生状況がDLできます)。乳幼児ではロタウイルスによる感染性胃腸炎が多いです。食中毒として多く届出があるアニサキスは胃や腸の壁に侵入してアレルギー反応を惹起し激しい腹痛と嘔吐を来すもので、他と比べて下痢が少ない印象です。①波のある腹痛、②嘔吐、③下痢の3つがそろって④「心当たり」があれば急性胃腸炎と診断することが多いですが、これらがそろわない場合や症状が変化する場合は別の疾患も考える必要があります。腹痛や嘔吐で発症する心筋梗塞も経験しますし、虫垂炎や腸閉塞の初期症状も急性胃腸炎と見分けがつかないことがあります。診断には診察と経過観察が必要ですのでご受診ください。

熱中症

熱中症は高温多湿などの暑熱環境に居る、あるいは居た後に、めまい、生あくび、失神(立ちくらみ)、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感などの症状がでるもので、重症だと意識障害、痙攣、肝・腎・血液凝固障害などを来し、死亡する場合もあります。地球温暖化が言われる中全国で毎年1,000人以上が死亡しており、2024年版日本救急医学会の熱中症ガイドラインではこれまでI度(軽症)~III度(重症)に分類されていた重症度に最重症のIV度を新たに加え、集学的治療を早急に開始することが重要とされました。熱中症の基本病態は脱水(水分・塩分の喪失)と高体温による機能異常です。高体温で血管が広がったところに脱水が加わると血圧が下がりすぎてめまいや失神を来します。入浴中に意識を失って搬送される人を沢山診てきましたが多くが熱中症です(従って冬でも熱中症になります)。お酒を飲んで入浴するとアルコールによる血管拡張作用も加わりさらに血圧が下がりやすくなります。浴槽内で意識をなくしたまま亡くなることもあるので入浴前はアルコールを控え、水分を補給し、熱すぎるお湯に長時間漬からないように心掛けましょう。これまで多くの熱中症患者を診療しましたが、熱中症と思っていても実は感染症や内分泌疾患など他の発熱性疾患だったことも多く、診断が容易とは言えません。体調が悪ければ遠慮なく受診して下さい。

IV度熱中症:深部体温40℃以上かつグラスゴーコーマスケール8点以下の意識障害があるもの。深部体温が測れない場合に迅速に対応するきっかけとなるように、体表温度が40℃以上かつ呼びかけても痛み刺激を与えても目を開けない位の意識障害があるものをqIV度としています。この場合はすぐに救急車を呼んで下さい。

痛風発作(痛風関節炎)

足の親指の付け根や甲などの関節が急に腫れて「風が当たっても痛い」と言われる激痛を起こすのが痛風発作です。関節内にできた尿酸の結晶を白血球が攻撃して炎症(痛風関節炎)を起こすことで発症します。血中の尿酸値が高い高尿酸血症の人は痛風発作を起こしやすいです。発作時には非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)やコルヒチン、ステロイドで治療をします。治療はできるだけ早く開始したほうがよく、繰り返す方は前兆が判るのでそのタイミングでコルヒチンを服用してもらいます。患部は挙上し、負担を避け、冷却するとよいとされます。発作期間中は禁酒します。尿酸値が高い時だけでなく急に下がった時にも発作が起こりやすいため、尿酸を下げる薬は発作が落ち着いてから処方いたします。発作予防に高容量のコルヒチンを長期間使う場合は下痢などの胃腸障害や血球減少等の副作用が出やすいので注意が必要です。

急性アレルギー(アナフィラキシー、蕁麻疹、口腔アレルギー症候群)

私たちの体には細菌やウイルスなどの外敵から身を守るために免疫という仕組みが備わっています。本来敵ではないはずの食物や花粉、自分の細胞などがある時から敵と認識され、それらを攻撃するための免疫反応が過剰におこり様々な症状を来したものがアレルギーです。アレルギーはその機序からI型(即時型)、II型(細胞障害型)、III型(免疫複合体型)、IV型(遅延型)等に分類されます。食物や花粉などによるアレルギーはI型で、自分の細胞を攻撃してしまう膠原病などはII型やIII型です。ここではI型アレルギーについて記載します。I型アレルギーは食物や花粉の他、ハウスダスト、ダニ、カビ、動物毛、ハチ毒、薬剤等のアレルギーの元になる物質を構成するアレルゲン(抗原)が体内に入り、免疫を担当する細胞が外敵と認識して抗体(IgE抗体)を作るところから始まります。IgE抗体はマスト細胞(化学伝達物質入りの顆粒を多く含み太ったように見えるため肥満細胞とも呼ばれます)や好塩基球の表面に存在し、このIgE抗体にアレルゲン(抗原)が結合するとこれらの細胞からヒスタミンやロイコトリエンなど種々の化学伝達物質が放出され痒みや腫れなどのアレルギー症状が引き起こされます。
I型アレルギーの治療には(1)この経路のどこかを断って症状が出ないようにする治療と、(2)出てしまった症状を改善させる治療があります。

(1)症状がでないようにする治療

    ①アレルギーの元になる食物や花粉を回避する
    原因物質(アレルゲン)の同定には問診が重要です。各種アレルゲンに対するIgE抗体の存在を採血で検査することもできますが、陽性でも原因でない場合があるため解釈には注意が必要です。原因が回避できれば症状はでません。
    ②化学伝達物質の放出や働きをブロックする薬を投与する
    抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、ステロイド、アドレナリンなど、色々な種類の薬があります。
    ③アレルゲンを外敵と認識しないようにする
    アレルギー反応が出ない位の少量のアレルゲンを長期間・年単位で繰り返し投与すると、体が慣れてきてアレルゲンを外敵と認識しなくなりアレルギーが出にくくなることが期待できる治療で、アレルゲン免疫療法と言います。スギ花粉症とダニアレルギー性鼻炎には錠剤による舌下免疫療法があります。

(2)出てしまった症状を改善させる治療

化学伝達物質の放出や働きをブロックする薬(上記②)や炎症を抑制する薬、症状をとる薬などを症状や疾患に合わせて内服、吸入、注射、外用等で使用します。
I型アレルギーには花粉症(アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎)、喘息、蕁麻疹、アナフィラキシー、口腔アレルギー症候群(OAS)などがありますが、最も緊急性が高いのがアナフィラキシーです。化学伝達物質は血管を拡張させたり、血管から水分を漏れ出しやすくしたり、炎症細胞を誘導したりして腫れや痒み等のアレルギー症状を起こしますが、アナフィラキシーではこのアレルギー症状が複数の臓器で同時に起こるため皮疹だけでなく血圧低下、呼吸困難、腹痛・嘔吐・下痢、意識障害などを来し死亡する場合もあります。重症のアナフィラキシーの治療はアドレナリンの筋肉注射です。アドレナリンにはマスト細胞からの化学伝達物質の放出を抑制する効果や血管を収縮させて血圧を上げたり腫れを引かせたりする効果、気管支を拡張させて呼吸しやすくする効果などがあります。アナフィラキシーを繰り返す方にはアドレナリンの自己注射薬(エピペン)を処方する事もあります。(エピペンの処方には予約が必要です)。皮膚にI型アレルギー反応が出たものが蕁麻疹です。蕁麻疹は皮下組織が腫れて痒みがでるため気付きやすいですが、気道や消化管が腫れたり、血圧が下がったりしても目に見えないため一般の方にアナフィラキシーの判断は難しいです。蕁麻疹にプラスαの症状(呼吸困難、気分不快、腹痛等)があり、どんどん悪くなる場合は救急車を呼んでよいと思います。自分が前勤務地で解析したデータ(学会発表8)では約10%に皮疹のないアナフィラキシーもあったので、アレルゲン(原因物質)の暴露(摂取/注射/接触)後数分から数時間以内に呼吸困難、気分不快、腹痛等がでたら要注意です。花粉症喘息については慢性疾患ページに記載します。

食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis, FDEIA)について

小麦や甲殻類などのアレルゲンとなる食物を摂取しただけでは発症せず、その後に運動をすることでアナフィラキシーを発症するものです。食事の制限は不要ですが、アレルゲンとなる食物を摂取した後2時間位は運動や入浴を避ける必要があります。患者が学生さんで午後に体育がある時は学校に知らせる必要があります。

口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome, OAS)について

果物やトマトを食べたときに口の中やのどが痒くなったりしびれたり腫れた感じになったりすることはありませんか。これは花粉症の人に多い口腔アレルギー症候群かもしれません。花粉と食物のアレルゲンが似ているためにIgEが反応して口の中でアレルギー症状がでるものです(口だけでなく全身にアレルギー反応が出る場合は花粉食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndrome, PFAS)ともいいます)。スギ花粉とトマト、カバノキ科(シラカンバ、ハンノキ等)花粉とバラ科果物(リンゴ、モモ、サクランボ等)、キウイフルーツなど、イネ科(カモガヤ、オオアワガエリ等)花粉とメロン、スイカ、トマト、キウイフルーツなど、ブタクサ花粉とメロン、スイカ、バナナなど、ヨモギ花粉とセロリ、スパイス類などの組み合わせが分かっています。原因となる食物を回避するのが基本ですが、生の食物で症状がでるため、缶詰や加熱後であれば大丈夫の事が多いです。

脳卒中

脳卒中は脳の血管が詰まったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血、くも膜下出血)して脳がダメージを受ける急性の疾患です。脳の細胞は壊死すると再生しにくいので麻痺や失語などの後遺症を来しやすく、壊死の範囲を最小限にするための治療は時間との勝負です。脳卒中の半分以上が脳梗塞であり、超急性期脳梗塞では静脈注射やカテーテルにより血栓を除去する治療法もあります。特に顔や体の片側に麻痺やしびれがでた、呂律がまわらなくなった、言葉が出なくなった、まっすぐ歩けなくなったなどの症状が「急に」起こったら脳梗塞かもしれませんのですぐに救急車を呼びましょう。程度の軽い脳卒中や一過性脳虚血発作と言って麻痺やしびれが一過性で治まってしまう場合は歩いて受診される方もいます。これらは大きな脳卒中の前兆になるため精密検査のできる連携医療機関に紹介します。脳梗塞の危険因子は高血圧、心房細動、糖尿病、喫煙、メタボリックシンドロームなどです。これらをしっかり管理して予防に努めることが重要です。