循環器内科概要

自分が小児期に心臓手術を受けた経験から研修終了後に循環器内科医になりました。東名古屋病院を退職するまで10年以上心臓カテーテル治療やペースメーカー手術などもしておりました。主に総合内科医として働きだしてからは救急や外来で循環器疾患に対応して参りました。クリニックでは循環器疾患の予防につながる生活習慣病の管理や慢性心不全、虚血性心疾患、不整脈、心臓弁膜症、末梢動脈疾患などの循環器内科疾患に対応いたします。緊急性が高い病態と判断した場合は高次医療機関へ速やかに紹介いたします。
心不全
心臓は全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。心臓が止まれば人間は死んでしまいますので非常に重要な臓器です。日本循環器学会と心不全学会が一般の方向けに心不全の定義を発表していて大変わかりやすいので抜粋します。
「心不全とは、①心臓が悪いために、②息切れやむくみが起こり、③だんだん悪くなり、④生命を縮める病気です」
簡単に①~④について説明します。
- ①
- 心臓が悪くなる原因は様々で、高血圧、虚血性心疾患、心筋症、心臓弁膜症、不整脈、先天性心疾患などが代表です。心臓の収縮能力がよくても拡張能力が低下すると心不全の原因になります。
- ②
- 心不全では全身にうまく血液が循環しないために全身倦怠感や疲労感などの症状が出たり、体に水が溜まって息切れやむくみ、腹部の張りなどが出たりします。体に溜まる水は重力によって移動するため、起きていると足がむくみ、寝ると肺がむくんで息苦しさや咳の症状がでます。動くと息が切れるので活動性が低下したりもします。
- ③
- 心不全は良くなったり悪くなったりを繰り返しながらだんだん悪くなります。
- ④
- 心不全で入院すると、その後の5年間で約半数の方が亡くなると言われます。
心不全とうまく付き合うためには塩分を摂りすぎないようにし、第二の心臓といわれる脚の筋力が衰えないように無理なく脚を動かし、個々の患者様に合わせた治療をしますので定期的にご通院ください。体に水がたまったサインを素早く発見するために、毎日体重を測定することをお勧めします。
体重計虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)
心臓が動くためには心臓の筋肉(心筋)に十分な酸素と栄養がいきわたる必要があります。この酸素と栄養を豊富に含んだ血液を運んでいるのが、心臓の周りを網の目のように走る冠動脈という血管です。冠動脈には太いものが3本ありこれらが詰まったり、内腔が細くなったりして心筋に十分な酸素と栄養がいきわたらなくなる病気が虚血性心疾患です(組織に血液が流れ込まず酸素と栄養が足りなくなった状態を虚血と言います)。血栓などで急に冠動脈が詰まったのが急性心筋梗塞で、心停止や心不全の原因になります。高血圧や脂質異常症、糖尿病、喫煙、加齢などによる動脈硬化で内腔が細くなって、運動時など心臓の動きが激しくなったときに酸素が足りず胸痛を起こすのが狭心症です。普段は内腔が細くないのに、ある時血管がキュッと締まって(攣縮といいます)胸痛を起こすものは異型狭心症と言い、喫煙やストレスなどが原因になります。動脈硬化があると血管内腔に傷がつきやすくなり、その傷を修復するために血小板が凝集して血栓ができます。心筋梗塞や狭心症の患者様には血栓をできにくくするために抗血小板薬を処方することが多いですが、血が固まりにくくなるため外傷や手術の時に注意が必要です。虚血性心疾患の診断と治療は専門医療機関と連携しながら行います。
不整脈
右心房にある洞結節で規則的に作られた電気信号が心臓内の電気の通り道(伝導路:図参照)を伝わることで心臓が規則的に拍動します(この規則的な脈拍を正常洞調律と言います)。この伝導路の異常で心拍が不規則になったり、速すぎたり、遅すぎたりしたものが不整脈です。運動をして脈が速くなるものは伝導路が正常なので不整脈ではありません。不整脈には多くの種類がありますが、よくみられるのは次のようなものです。
期外収縮
正常の予期される心拍よりも前に電気信号が入るもので、一発で正常に戻るものから連続で何発も入る場合もあります。正常の方にもみられ、脈が飛ぶような自覚症状が出る場合もありますが症状が無い事の方が多いです。原因疾患や自覚症状がなければ経過観察とすることが多いです。
ブロック
伝導路のどこかが「ブロック」され、電気信号がうまく伝わらない状態です。部分的なブロックで伝導が遅くなる場合と完全にブロックされる場合があり、ブロックされる部位により房室ブロック、右脚ブロック、左脚ブロックなどと言います。経過観察でよいものからペースメーカーが必要なものまで色々なパターンがありますのでご相談ください。
洞不全
洞結節の異常で正常の規則的な電気信号が作られなくなったものです。ものすごく心拍が遅くなって心不全になったり、数秒以上脈が止まって失神したり、脈が異常に遅くなったり速くなったりを繰り返したりなど色々なパターンがあります。
ブロックや洞不全で心臓が止まらないように洞結節以外の場所から(規則的に)電気信号がでて心臓を動かす補充調律という安全機能が心臓には備わっています。補充調律の出る場所が洞結節に近い場合は比較的安定していますが、下位の心室に近いところから出る場合は不安定なので早急な対応が必要です。
上室性頻拍、心室頻拍、心房粗動など
正常の伝導路以外にバイパス道路のような電気の通り道ができて、電気信号が正常伝導路とバイパス伝導路をくるくる回って連続で速く心臓を刺激し心拍が速くなる病気です。発作性のものは動悸や胸痛などの症状や、心拍が速くなりすぎると心臓が十分拡張できずに血圧が下がり、めまいや失神を起こすこともあります。
心房細動
心房内の洞結節以外の場所(多くは肺静脈付近)から不規則な電気信号が出て心房が細かくブルブル動き、心拍が不規則になる病気です。発作性では動悸やめまいなどの症状がでることもありますが、心拍数が多くないものや慢性だと自覚症状が無い事も多いです。心房細動では不規則に心房が震えるので心房内に血液の流れがよどむ場所ができます。流れていない血液には固まる性質があります(傷口の血は固まって傷をふさぎますよね)ので、血液の流れがよどんだところには血の塊(血栓)ができやすくなります。心房細動により心房内に血栓ができて、それがはがれて飛んでいき、脳の血管がつまると脳梗塞、腎臓の血管がつまると腎梗塞などの塞栓症を来します。特に脳梗塞は重症で生死にかかわる事も多いので、心房細動の患者様では血栓のリスクを評価し必要に応じて抗凝固薬を投与します。
心室細動
心臓のポンプの部分である心室がブルブル震えてポンプの役割を果たさない状態で心停止にあたります。すぐに胸骨圧迫などの蘇生処置が必要でAEDを使う場面です。
不整脈には色々な種類があり、原因も様々で緊急性の判断も重要です。治療はクリニックで可能なものから、アブレーションやペースメーカー植込みなど専門医療機関でしかできないものまでありますので連携医療機関と協力しながら行います。
私は基本的に受診いただいたすべての患者様に聴診をしております。これは早期に心房細動などの不整脈を発見するためでもありますのでご理解いただきたいと思います。
図:患者様説明用に使っている心臓の刺激伝導路の簡略図

心原性失神
失神のうち、心臓や大血管が原因のものが心原性失神です。心原生失神は突然死や重大な事故の原因になるためしっかりと診断し治療をする必要があります。以下のような心原性失神を疑うリスク因子がある場合は精密検査が必要です。
- 重度の器質的心疾患あるいは冠動脈疾患、心不全、心拍出量低下、心筋梗塞既往がある
- 運動中の失神、臥位での失神、失神時に動悸があるなど不整脈による失神が示唆されるもの
- 不整脈性失神が示唆される心電図異常がある
- 重度の貧血,電解質異常などがある
当院では問診と診察の後、心電図、心エコー、採血などの検査を行います。さらなる検査が必要な場合は連携病院に紹介いたします。
心臓弁膜症
全身から戻った血液が右心房→右心室→肺動脈→肺→左心房→左心室→大動脈→全身と一方通行で流れるように心臓の各部屋の出口には一方向に閉じたり開いたりする弁がついています(図参照)。この弁がうまく働かない病気が弁膜症で、うまく閉じずに逆流するものが閉鎖不全症(逆流症)、うまく開かないものが狭窄症です。心筋梗塞や感染性心内膜炎などで急激に進行する弁膜症もありますが、多くの弁膜症は無症状のままゆっくり進行し、悪化すると心臓の負担が大きくなり心不全の原因となります。聴診で心雑音を聴取したら心エコーを行い診断します。クリニックでは心臓の負担をとるような内科的治療を行いつつ急激な悪化がないかフォローをし、必要に応じ専門医療機関へ紹介いたします。重症の弁膜症は以前は手術でしか治せませんでしたが、最近弁膜症の種類によってはカテーテルによる治療も選択されるようになりました。
図:患者様説明用に使っている心臓の簡略図

末梢動脈疾患
主に動脈硬化により足の動脈の内腔がつまったり狭くなったりして血流が足先まで十分届かず、痛みが出たりひどいと壊死したりする病気です。クリニックでは動脈硬化の基礎疾患の管理と内服治療を行い、カテーテルや手術、外科処置が必要な場合は専門医療機関と連携します。
大動脈瘤
動脈硬化では血管が固くなるだけでなくもろくなり、壁の弱いところが膨らんでコブ(瘤)状になることがあります。大動脈瘤自体は無症状の事が多いですが破裂すると生命に関わりますので早期発見と発見後の定期的なフォローが必要です。クリニックでは基礎疾患となる高血圧などの管理とレントゲンやエコーによる大きさのフォローを行い、手術やカテーテル治療が必要な場合や急に大きくなった場合などは専門医療機関と連携します。
心肺蘇生
夫婦で買い物中、ご主人が「うーっ」と言って急に倒れました。「あなた、大丈夫、大丈夫?」と呼び掛けても返事がありません。さて、どうしましょう?まずは大声で応援を呼び、119番通報とAED(自動体外式除細動器)を持ってきてもらうようにお願いします。次に呼吸をしているか確認します。意識が無くて普通の息をしていなければ心臓が止まっている可能性が極めて高いので心肺蘇生(CPR)を開始します。胸の真ん中(胸骨)を強く(5~6㎝沈むくらい)、速く(1分間に100~120回くらい)、絶え間なく、押して・戻してを繰り返します(胸骨圧迫)。人手があれば疲れる前に交代してもらいましょう。AEDが到着したらふたを開け(スイッチがあれば押し)、音声案内に従えば大丈夫です。AEDがなければ救急隊が到着するまで、または倒れたご主人が動き始めるまで、とにかく胸骨圧迫を続けます。心停止をした人を放置するとその人が助かる可能性は時間を追うごとにどんどん低下してしまいます。さあ、愛する人を助けるために行動しましょう。
私が運転免許をとった1990年代にはありませんでしたが、現在では運転免許取得時に心肺蘇生講習があり、日本でも一般市民による心肺蘇生実施率が50%台になりました。ただヨーロッパでは70-80%台の国もあり、日本もさらに実施率を上げて、助かる命を一人でも増やしたいですよね。講習をうけても半年から数年経つと忘れてしまう事が多いので、時々動画などみて復習できると良いですね。心肺蘇生講習はお近くの消防署でも受けることができます。