感染症について

熱が出たときに最初に考えるのが感染症ですが、高齢者など免疫力が弱い方や感染の初期などでは熱が出ないこともあるので注意が必要です。なんだか元気がないなあ、という時は感染症かもしれません。
感染症診療の基本
感染症はウイルスや細菌などの微生物が体の組織に入り込んで悪さをする病気です。感染症を診療する時は、①体のどこに、②どんな微生物が感染し、③どれだけ重症かの3点を見極める必要があります。
- ①体のどこに
- 痛いところ、腫れているところがあればそこが感染の主戦場(感染部位)と推定します。その場所が一つの臓器とその周辺だけなら細菌による感染症のことが多く、体のあちこちが痛かったり体の左右に皮疹がでたりしたらウイルスや特殊な微生物(リケッチアなど)が原因の感染症や感染症以外の病気のことが多いです(もちろん例外があります)。受診いただきましたら問診、診察、必要に応じてレントゲンやエコーなどの画像検査や採血、尿検査等をして感染部位を推定します。CTやMRIなどの画像検査が必要な場合は検査紹介いたします。
- ②どんな微生物が
- どんな微生物が原因か、戦う相手を知ることは重要です。細菌であれば抗菌薬が使えますし、一部のウイルス(インフルエンザ、新型コロナウイルス、ヘルペスウイルス等)では抗ウイルス薬も使うこともできます。当院ではインフルエンザ、新型コロナウイルス、A群溶連菌の迅速検査が可能です。詳しい検査として細菌については推定される感染部位から検体(血液や痰、尿、便汁、ぬぐい液など)を採取して培養をしますが、結果がでるのには数日から1週間ほどかかります。ウイルスなど培養に適さない微生物については必要に応じて培養以外の検査をしますが、すべてのウイルスや微生物を調べることはできません。地域の流行情報から原因微生物を推定することも多いです。原因が特定できなくても3週間以内に改善すれば「何らかのウイルス」が原因であったと考えることが多いです。
- ③どれだけ重症か
- 重症度を判断するのに重要なのがバイタルサインです。バイタルサインとは体温や脈拍数、呼吸数、血圧、酸素飽和度、意識状態などを数字で表したものです。意識が悪い、呼吸数が1分間に22回以上、上の血圧が100mmHg以下などがあると敗血症の可能性があり重症と判断し入院を含めた治療を考慮します。体温については高体温よりもむしろ低体温の方が重症の場合があり注意が必要です。
これら①②③の3点に着目して診察をし、診断後に治療を行います。治療については軽症で元来健康な方(免疫力が保たれている方)では自然回復に期待して対症療法(つらい症状をとるための治療)だけで終わることもあります。細菌による感染症に抗菌薬を処方する場合は培養検査を行うことを基本とします。これはより適切な抗菌薬に変更したり、治療がうまくいかなかったときの次の一手を考えたりするのに重要だからです。培養検査は例えば肺炎なら喀痰、尿路感染なら尿を採取して行います。菌血症(細菌が血液中に存在する状態)を疑う場合は診断精度を上げるため2か所から採血(血液培養)をします。経過をみることは非常に重要で、症状に改善がない場合は必ず再受診してください。
風邪に抗菌薬は効きません
ウイルスが気道(鼻から肺までの空気の通り道)に感染し、①鼻症状(鼻水・鼻づまり)、②のど症状(イガイガ・痛み)、③気管~肺症状(咳や痰)の3つが「同時」に「同程度」存在する場合に風邪(感冒)と診断します。発熱の有無は問いません。感染症の基本で述べたように気道の複数個所に感染するのがウイルスの特徴です。抗菌薬はウイルスには効きませんので風邪には抗菌薬を投与しません。これに対し、①鼻症状だけが強い場合は急性鼻炎/副鼻腔炎、②のど症状だけが強い場合は急性咽頭炎/扁桃炎/喉頭炎、③気管から肺症状だけが強い場合は急性気管支炎/肺炎などを疑う必要があり、ウイルス以外の病原体が原因になることがあります。細菌感染が原因と判断される場合は重症度を判断後、必要に応じて抗菌薬を使用します。のどが痛いのに赤く腫れていない場合は心筋梗塞や動脈解離、縦隔気腫など感染症以外病気のこともあり、咳と痰の原因が心不全の事もあるため、①②③の3症状がそろわない場合は風邪と自己判断せずに受診してください。
風邪の治療は自分の免疫細胞がウイルスを退治してくれるのを待つのが基本です。ゆっくり休んで、水分をこまめにとり、症状がつらければ総合感冒薬を使ってもよいでしょう。風邪に抗菌薬を投与すると副作用(アレルギー、下痢等)で苦しんだり、抗菌薬の効きにくい菌(耐性菌)が生まれて、それが免疫力の低い人に感染すると大変なことになったりする可能性があります。この耐性菌による問題は深刻で、耐性菌により世界で年間70万人が死亡していて、何も対策をとらないと30年後に1,000万人が死亡すると予想されています。耐性菌を生まないように我々は抗菌薬を適正に使用し、患者様にも理解いただく必要があります。詳しくは厚生労働省委託事業であるAMR(薬剤耐性)リファレンスセンターのHPをご参照ください。